あの空前の大ヒット作となったカリスマ・ムービー
―― 『マトリックス』 の主人公である
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凄腕ハッカー――ネオくんが投稿してくれたので、
ひじょうに嬉しくなったのと同時に、
あらためてこの映画を思い返したしだいである。
『マトリックス』 は、圧倒的な視覚効果と、
疾走感のあるハイテンポな展開で、
瞬 (またた) く間に有名になったわけだが、
でも、あの映画があれほど熱狂的な人気を
博 (はく) した理由は、そういった新たな
映像表現の画期性といった新奇性のみに
とどまるものではけっしてなかったはずだ。
映画評論家であり、特殊翻訳家でもある
柳下毅一郎氏の言葉を借りれば、
『マトリックス』 は、ひと言でいえば、
「きわめてシンプルな願望充足物語」
であった。
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そりゃ、そうだろう。
だって、ネオくんは、昼間は
大手ソフトウェア会社に勤める
さえないプログラマだ。
上司にウダウダグダグダ嫌味を
いわれながら日々つまらない仕事を
せっせとこなしている。
そんなネオくんに、謎のテロリストハッカーである
モーフィアスから次のような選択を迫られたとしたら……
青いピル――それはわたしたちが
見ているような、あるいは
生きているようなこの世界、
すなわち 「現実」 だ。
「現実」 は、現実なのか。
ちがう。
それこそがマトリックス
――コンピュータネットワークが
つくだしたフィクションなのだ。
その一方――。
赤いピル――それは 「真実」 の世界であり、
これを選ぶことこそエリートであることの証なのだ。
そうすればマトリックスはどのようにも変えられる。
マトリックスのなかを自由自在に操れる。
つまり、マトリックス = 「現実」 を書き換え、
人類を救い出す 「救世主」 となれるのだ。
このようにモーフィアスから
「啓蒙」 され、覚醒したネオくんは、
迷わず、赤いピルを選ぶ――
真の 「現実」、すなわち 「真実」 を求めて。
そりゃ、そうだろう。
だれだって退屈な現実は――
それが退屈であればあるほど――
嫌いだもの。
願わくばそんな現実を書き換える
ことのできる真の王者になりたいものね。
ところが、そんなことはありえないのだ。
あるわけないじゃないか。
だからこそ、『マトリックス』 は、
「きわめてシンプルな願望充足物語」
でしかありえなかったのだ。
ところで――。
実は、山形浩生氏によれば、
アメリカの作家――
ウィリアム・バロウズ (William Seward Burroughs)
の個別の小説も、
『マトリックス』 のモーフィアスと同じように、
それぞれは赤いピルを選べと、
つまり、この 「現実」 から 「目覚めよ」と、
"Wake Up" (@RATM)
と訴えかけていたという。
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本書 『たかがバロウズ本。』 は、
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山形浩生氏の人生を懸けた著者渾身の
「魂」 の一大傑作である。
本書の射程範囲は、それこそ超弩級で、
きわめて膨大であり、全編にわたって、
その悪鬼のごときインテリジェンスから
繰り出される恐るべき知見が、
縦横無尽に展開される。
少なくともいまのわたしの力量では
本書の全貌を紹介するなどということは
とうてい 「ミッション・インポシブル」 であるため、
それは潔 (いさぎよ) くやめておくことにする。
いずれにしても、本書はバロウズという作家の
単なる作家研究にとどまらない。
そんなことはありえない。
おそらく本書を読めば、小説観、文学観、社会観、
ともに含めた世界観が根底から覆 (くつがえ) される
ことになるはずだ。
疑いなく一新されるはずだ。
それほどに強大な力を本書は秘めている、
ということはここでお伝えしておこう。
さて、本書のテーマは究極的には 「自由」 であるが、
そのエピローグにおいて、山形氏は 『マトリックス』 における
「赤いピルと青いピルの間に何か差はあったんだろうか」
と疑問を投げかけたうえで、赤いピルにせよ、青いピルにせよ、
どちらも隷属 (れいぞく) にはちがいないとし、次のようにいう。
「もしかすると、赤いピルと青いピルを選ぶこと自体には、
結局何のちがいもないのかもしれない。
本当にだいじなのは、赤、青を選んだ後で
あなたが何をするか、ということだ」 (p.334)
あるいは、わたしたちには、実は
すでにもうひとつ選択肢が生まれているのだ。
それは、赤いピルも青いピルも
「どっちも選ばないこと」 である。
「そういう選択そのものを拒否することだ。
それが実際の生活において何を意味するのか、
それはあなた自身が考えることだ。
そしてもちろん、その新しい選択肢が
従来のものに比べてましかどうかも」 (p.334)
少なくともわたしは青いピルを選んでいまを生きている。
そのためにも、もっとこの現実を彷徨 (さまよ) いつづけ、
飽くことなく探求していきたいしだいである。


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止まらなくなる思考がある。
現実自体の有無を疑うことから始まるこの物語は
SFアクション映画というよりも
哲学に近いモノを感じて
始めて見た時、
少女の頃に思い描いた
アノ世界観の味が蘇ってきちゃった!
わたしも 『マトリックス』 をはじめてみたときは
――うっしーさんがいみじくも感じとられたように――
アクション的興奮よりはむしろフィロソフィカルな
知的刺激をビンビン感じまくった記憶がございます。
さて、実は、ここで書いた話には
まだまだつづきがあります。
次回は、「青いピルの世界」 について
もう少し突っ込んで書いていくしだいでございます。
どうかそちらもあわせてご笑覧いただきますよう
よろしくお願い申し上げます。
おっと。
やべえ。
時間がねえ。
急いで出勤しなくっちゃ。
まあ、うっしーさん、そういうことで。
じゃあまた。