2009年07月06日

ベルナール・スティグレール 『向上心について――人間の大きくなりたいという欲望』

愛と幻想のファシズム〈上〉 (講談社文庫)
愛と幻想のファシズム〈上〉 (講談社文庫)村上 龍

講談社 1990-08
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[1]
「人間に欲望があるというのは嘘だ、いいかね?
例えばペルーのスラムに住む女の子が
テレビのコマーシャルを見て口紅を欲しがるとするね、
でもテレビで見る前は口紅を知らなかったのだから、
口紅を欲しいという欲望はなかったことになる、
口紅のコマーシャルが欲望を生んだんだ、わかるか?」
「よくわかる」

(村上龍 [1990: p.327])

[2]
「当然のことだが、
グリズリーは電車にも飛行機にも
タクシーにも乗らない。
姿が見えなくても、足跡がある限り、
その先に必ずグリズリーはいるのだ。
獲物を追った者でなければ、
この当然で、単純なことのすばらしさはわからない。
グリズリーは地面から足が離れることがないのだ。
二本足で立ち上がり歩行する必要も、
無期限の発情の必要も、
種内で殺し合う必要もない。
家族も社会も国家もいらない。
それは完璧に科学的だと俺は思う。
宇宙のすべてに対して何ら疑問を持たないグリズリーは
どれほどすごい宗教家よりも完璧な存在なのだ。
グリズリーは代謝作用で発情する。
俺達は大脳で発情する。
精液が溜まって勃起するわけではない。
裸の女が股を開いているところを思い描いて勃起するのだ。
本当は人間には何の欲望もない。
対象があるために欲望が発生するだけだ。

もし、欲望の充足、
つまり自らの欲望の消去、または消去の過程を、
快楽と呼ぶのならば、
グリズリーは、永遠の快楽と共に在ることになる。
笑顔も涙も、薬も宗教も、小説もストライキもいらない。」

(村上龍 [1990: pp.353-354])

本来、人間には欲望などなく、
それが発生するのは対象があるためだ
――ずっとそう思い込んでいた。
が、本書によると、ちょっとちがうようだ。
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向上心について―人間の大きくなりたいという欲望 (小さな講演会)Bernard Stiegler メランベルジェ 眞紀

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「私が思うに、何百万年ものあいだ人間の統一性
(まとまり) をなしてきたもの、つまり最初の
人類である背の低かった人間と月にまで行ける
ようになった現代人とのあいだの共通点は、
人間が求めているもの、そして 「…したい」
という欲望を持つこと自体なのです。
では人間は何を求めるのでしょう。
 
人類の最初からずっと、人間は上に向かおう
としてきたのです。
まだ矢尻 (やじり) を
作ることもできなかったときでさえ、人は上に
向かって行きたくてしかたありませんでした。
人間を活気づけているのは、つねにもっと
高いところに行きたがるということ、
つねにもっと高いところを目指すその欲望なのです。

(中略)
人間はもっと上を目指さなければならない、
そしてまさにそうすることで人間は喜びを
おぼえるのだと確認したのです。
(pp.23-28)

ということは、Perfumeが 『Dream Fighter』 で
次のようにキュートに力強く歌っていることは
まったくそのとおりとしかいいようがないのだろう。

♪最高を求めて 終わりのない旅をするのは
きっと 僕らが 生きている証拠だから♪

(歌詞はここから転載。)





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それでは、『ちょうどいいとこにいたい』(@たむらぱん)
という価値観となるといったいどうなるのだろうか。
「ちょうどいいとこ」 というのは、おそらく
「まとも」 とか 「平均値」 とか 「真ん中」 とか、
まぁそのあたりに的をしぼっているのだろうけど、
これはこれで、ある意味、「欲望」 がないと
達成が困難な話であるにちがいないように思う。
だって、「ちょうどいいとこにいたい」 っていっても
それはそれで簡単なようでなかなかむずかしいもの。
そもそも、「ちょうどいいとこ」 = 「普通」
だとしたら、その 「普通」 になるというのが、
案外、どころか、とんでもなくむずかしい話だし。
だいたいおれだって何度も何度も 「普通」 になろう
なろうとしていったいどれだけ数多くの
数えきれないほどの失敗を重ねたことか (笑)。
もしかしてその 「ちょうどいいとこ」 = 「普通」 なんて
単なる幻想でしかありえないかもしれないしね。



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なお、本書は、
フランスの哲学者ベルナール・スティグレール
(Bernard Stiegler) が、子どもたちにむけて
「人間の大きくなりたいという欲望について」
というテーマで語ったさいの講演録である。
向上心について―人間の大きくなりたいという欲望 (小さな講演会)
向上心について―人間の大きくなりたいという欲望 (小さな講演会)Bernard Stiegler メランベルジェ 眞紀

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ベルナール・スティグレールは、フランスで
現在もっとも注目されている哲学者のひとり
であるというが、わたし自身はかれのことを
本書をつうじてはじめて知ることになった。
現勢化―哲学という使命
現勢化―哲学という使命Bernard Stiegler Gabriel Mehrenberger ガブリエル メランベルジェ

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star私生活のごく秘められた部分からの哲学

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愛するということ―「自分」を、そして「われわれ」を
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我が敬愛すべき根本敬学長によれば、
「哲学」 なんてものはしょせん
「ナマケモノの自己弁護」 (p.148)
でしかないのかもしれないけれど、
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star足掛け9年の定期講演を力技で凝縮した一冊。
star表現に携わる者、必読。

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(本書についてはこちらをご参照のこと。)
でも、「限界を越えて」 しまい、銀行強盗を試み、
その結果、刑務所に五年間叩き込まれたあげく、
「哲学」 をつうじて 「新しい人生」 を発見し、
「生きることを学び続ける」 態度を獲得することで、
起死回生を遂げた哲学者ベルナール・スティグレールの話は、
その特異な体験がバックグラウンドにあるためか、
異様に説得力があるし、なによりも凄みがある。
そしてなによりも 「退屈なことからなんとしても
逃 (のが) れようとしている」
(p.6) のが哲学者
なのだという指摘には、「哲学者」 とはあまりにも
かけ離れた人種であるおれにもつよくつよく響いた。
だって、退屈って、"Boring" (@P!nk) なことって、
これほど人間にとって最悪な、不健康なことって
それほどかんたんには見つからないもんね (笑)。



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star通して聴くなら
star前作のほうが好き
star良かったです

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posted by PM at 20:49| 東京 曇り| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評/画評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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